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井上研とは、「グローバルな超高齢社会に貢献するための研究室」

キーワード:老化・免疫・敗血症
研究背景 Main project

研究背景


世界で進む高齢化社会

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少子高齢化は日本が抱える大きな社会問題である。

2030年には65歳以上人口は約3500万人に達し、総人口の約30%を占めるといわれている。若年者の都市部への流出や核家族化にともなう独居老人の増加などの社会背景を勘案すると、今後も救命センターに搬送される高齢者は増加すると考えられる。
また日本のみならず、欧米などの先進国、中国や韓国などの多くのアジア諸国でも国民の平均年齢は上昇しており、患者の高齢化と超高齢社会における医療システム構築は本邦のみならず世界的な課題である。2050年にはアフリカと中東を除いた世界の各国が超高齢社会(総人口における65歳以上の人口が占める割合が20%以上)に突入するという報告もある。



敗血症(はいけつしょう)の病態

画像 高齢者では軽度の侵襲が致死的な病態に移行することが多く、軽度な外傷や熱傷、脳梗塞、市中肺炎、悪性腫瘍等の侵襲から免疫抑制状態に陥り全身状態が悪化する。とくに高齢者や基礎疾患のある患者では、局所の感染が全身性に波及する敗血症に陥りやすい (Hotchkiss et.al., New Eng. J. Med. 2003)。 私たちは長年重症敗血症の亜急性期に問題となる「免疫抑制」のメカニズムについて研究を重ねてきた。敗血症では急性期の「サイトカインストーム」と呼ばれる急性炎症反応のち、亜急性期に免疫抑制状態に陥ることが知られており、その原因の1つにリンパ球のアポトーシスが報告されている(Hotchkiss et.al. New Eng. J. Med. 2003)。私たちらはこのリンパ球のアポトーシスを抑制するために、抗アポトーシス作用を有するIL-15をマウス敗血症モデルに投与することでT細胞の数と機能を回復し、その生命予後を著明に改善することを明らかにした(Inoue, et al. J. Immunology 2010)。さらにCD4+ T細胞の活性化を抑制する表面レセプターであるprogramed death 1(PD-1)やCytotoxic T-Lymphocyte Antigen 4 (CTLA-4)の抗体を用いた研究を行なっている。2011年には抗CTLA-4抗体が敗血症により非活性化されたT細胞を再活性化し、マウス敗血症モデルの予後を改善させたことを報告した(Inoue, et al. Shock 2011)。


免疫老化と敗血症

画像 近年敗血症は「高齢者の疾患」と言われている。それは、敗血症患者の約60%が、また敗血症で死亡する患者の80%が65歳以上の高齢者であるためである。私たちは65歳以上の高齢者敗血症の3ヶ月後生存率は18-64歳の成人敗血症と比較して有意に低く(59% vs. 90%; p<0.01)、高齢者敗血症死亡例の約80%が入院後7-28日後の亜急性期であることを報告した画像(Inoue, et al. Crit Care Med. 2013)。
また生後1歳8ヶ月の高齢マウスの敗血症の7日後生存率は、若年マウスと比べて有意に低く(0% vs. 72%; p<0.01) (Inoue, et al. Crit Care 2014)、早老マウスと呼ばれるKlothoマウスの敗血症予後も不良であった(Inoue, et al. Shock 2013)。


高齢者および高齢マウスの敗血症後の生存率がなぜこれほど低いのか?その原因はさまざまであるが、画像私たちは、その原因の1つに加齢に伴う免疫機能の低下(免疫老化 immunosenescence)があると考えている。私たちは高齢敗血症患者および高齢マウス敗血症モデルの免疫機能解析を行い、T細胞の数と機能の低下や疲労(活性化・増殖・サイトカイン産生の障害)が考えられることを報告している(Inoue, et al. Crit Care 2014)。


画像以上よりT細胞の数と機能の低下が高齢者敗血症の亜急性期の免疫抑制状態の原因の一つと考えられ、今後はいかに高齢者由来T細胞を再活性化し、予後を改善できるかが高齢者における敗血症治療の課題となる。当研究室では明らかになりつつある免疫老化のメカニズムに基づいた新たな高齢者敗血症の治療薬・新規治療法の開発を目指している。

現在の主なアプローチは「創薬」と「デバイス」である。創薬では免疫老化に関連した受容体の立体構造よりコンピューターシュミレーションによる化合物探索とその評価系構築を行っている(東海大学先進生命研究所 平山研究室との共同研究)。また、デバイスでは積極的に医工連携や企業との共同研究をすすめており、材料開発や革新的診断技術開発に関する基礎研究を展開している。以下に代表的な井上研のプロジェクトを紹介する。
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Main project

1「創薬」

IL-15様化合物の探索と老化免疫の活性化に注目した新たな敗血症・肺炎 治療戦略。

画像本研究ではT細胞やNK細胞の増殖・活性・成長因子であるインターロイキン-15(IL-15)に立体構造が類似した低分子化合物を、コンピューターシミュレーションおよび化合物ライブラリーを用いて探索する。これら化合物の高齢者および高齢マウス由来老化T細胞における再活性化効果をin vitroで判定し、さらに高齢マウス肺炎および敗血症モデルにおける生存率への影響を調べる。高齢者の肺炎・敗血症は重症化しやすくその予後は極めて不良で、超高齢化社会の本邦では深刻な問題である。申請者は高齢者敗血症では亜急性期の免疫抑制状態が死亡要因となっていることを報告し、IL-15がマウス敗血症モデルの生命予後を改善し、高齢者由来T細胞を活性化することを発見した。 しかし、生理活性物質であるIL-15の半減期は短く不安定で、また組み換え蛋白の大量生産の困難さにより臨床応用は難しい。本研究において、IL-15を模倣した低分子化合物を探索しその薬理効果を明らかにすることで、今後先進国で爆発的に増加する高齢者の肺炎・敗血症の新規治療薬の開発を目指す。
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2 「デバイス」

迅速な肺炎・敗血症診断を可能にするベッドサイドでの新たな細菌ゲノム診断システムの構築

「肺炎・敗血症」の死亡率が高い原因として、迅速に原因病原体を同定できない血液培養や非特異的なバイオマーカーによる肺炎・敗血症の「診断の遅れ」がある。肺炎・敗血症患者の血液には約0.2%のみしか細菌由来ゲノムは存在せず、ヒトゲノムもすべて解読する従来型の全ゲノム解析は莫大な時間と費用を要する。このため我々の研究室では東海大学医学部分子生命科学の今西規研究室と共同で、感染症ゲノム診断プロジェクトを展開している。すなわち...@患者血液サンプルより高効率に細菌由来DNAを抽出・増幅する「細菌ゲノム抽出法」を確立し、A病原微生物由来DNAを特異的に配列決定し感染微生物を特定する「細菌ゲノム評価同定法」を確立することである。本研究はAMEDの支援の下、 細菌ゲノム解析に特化した抽出・増幅・同定システムを新たに構築することで、試料の採取から診断確定までを、医療現場で2時間以内に実施できるようにすること指向した基盤研究を行っている。
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その他のプロジェクト

井上研では老化免疫および免疫抑制に関する以下のプロジェクトを展開している。

· 頭部外傷患者の免疫解析
· マウス誤嚥性肺炎モデルの確立
· ナノ粒子・ナノディスクによる肺炎治療
· 細菌由来フェノール酸による新たな敗血症診断
· 敗血症モデルにおける老化造血幹細胞の機能解析

学内外・国内外の共同研究募集しています。

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